Improvised Music from Japan / Information in Japanese / Aki Onda / writings

赤れんが倉庫を訪ねて

恩田晃

去年、『カセット・メモリーズ』という十数年に渡って録り溜めてきたフィールド・レコーディングの音源を演奏したアルバムのシリーズをリリースし始めた。それからというもの、何故か、一風変った場所で演奏しませんか、というオファーが頻繁に舞い込んでくる。フランスの閉山した鉱山や、ベルギーの古い劇場や、メキシコの教会や……、いくつかは実現したし、いくつかはこれから実現するだろう。それらの場所は、長年に渡る固有の記憶が染み付いた場所で、打ち捨てられたり、忘れ去られたりしている。わたしはパーソナルな記憶をもとにして音楽をつくっているのだけれど、記憶が記憶を呼び覚すのか、芋づる式に様々な記憶が引き摺り出され、わたし自身のあずかり知らないところで、なにか大きなものが勝手に動き出しているように感じたりもする。で、今年の春、アーツアポリアの小島剛さんから突然メールが来て、来年、赤れんが倉庫でなにかやりませんか、と。ピンと来るものがあったので、どんな場所かも確認せずに、やりますよ、と答えた。大阪はかつて住んだこともある馴染み深い都市、それゆえに嬉しかったということもある。とにかく、実際に実物を見てみようと、偶々日本に滞在していた夏の終りのある日、赤れんが倉庫を訪れることにした。

9月12日 新幹線で東京から大阪へ、新大阪駅に小島さんが迎えに来てくれ、彼の車で大阪の街なかを突っ切って大阪港の赤れんが倉庫へ。見覚えのある景色が次々に眼に飛び込んでくる。梅田、難波あたりは雰囲気がかなり変ったようだ。大正区の寂れたあたりがわたしが以前に見ていた大阪らしさをとどめている。まったりとした空気感が残っている。赤れんが倉庫は、写真で見ているぶんにはおしゃれな感じすらしていたが、実際には朽ちかけた廃屋に近い。先週の台風でトタン屋根の一部が吹き飛んだそうだ。時の流れの重みを感じる。インスピレーションも湧きやすい。

9月13日 倉庫のひとつひとつでギター・アンプにカセットをつなげて鳴らしてみて、響きの違いを比べてみる。一番奥まった場所、床がコンクリートの倉庫がもっとも深い音がする。「深い」というのは、積もり積もった記憶の粒子が空間に漂っているということ。カセットのざらついた音の粒子とうまい具合にくっついて、面白い化学反応を起こす。どうも、重いギター・アンプを運んだせいか、数週間まえに傷めた腰がさらに悪化したようだ。

9月14日 朝、眼を覚ますと、腰が痛くて起き上がることができない。整体師にマッサージをしてもらい、その場しのぎにはなんとかなる。新幹線で東京へ戻る。東京駅でスタジオボイスの松村正人と待ち合わせをすると、その場にヤマタカ・アイが現れる。久しぶりの再会。きのう、赤れんが倉庫で小島さんと打ち合わせをした時に、<音と記憶>というものに違った角度からアプローチしている音楽家の話をしていて、去年、赤れんが倉庫でパフォーマンスをした鈴木昭男、それにヤマタカ・アイの名前があがっていた。次ぎの日に偶然に出くわすとは…、昔、わたしが十代の頃、彼がシャグスやら、エグズマやら、ホワイトハウスやら、変なレコードをいろいろ聴かせてくれたことを思い出した。

てなわけで、この企画は2005年の9月に実現しそうだ。『カセット・メモリーズ』の拡張版。細部はまだなにも決めていない。<音と記憶>の結ぼれをわたしなりに探っていくことになるだろう。さて、いったいどうなることやら。

2004年9月 メルボルンにて

『アーツアポリア ニューズレター』No. 11(2004年)掲載


Last updated: January 26, 2005