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イクエ・モリ、ニューヨークにて

恩田晃

これは、イクエさんにニューヨークでの27年間を語ってもらって、それをまとめたものです。彼女、いまのニューヨークで一番輝いているミュージシャンだと思うんです(もちろん、この都市は色々なタイプの音楽が混在しているので、あくまでわたしが関わりのあるコミュニティーにおいての話ですが)。だれよりもいきいきとした音楽を生み出しているというだけでなく、作曲にせよ、即興にせよ、音楽のストラクチャーの組み方がノート・ベースからサウンド・ベースに極端に移行してしまったいま、ジョン・ゾーンらの世代のダウンタウンのミュージシャンのなかで、唯一サウンド・ベースの音楽になんの苦もなく適応できた稀な存在で、ゆえにジェネレーションのギャップを埋めるすごく重要なポジションにいる。だから、彼女と同じ世代のベテラン・ミュージシャンと若い世代のエレクトロニック・ミュージシャンの両方からリスペクトを受けている。とはいっても、彼女の音楽が時代にあわせて変化したわけではなくて、もともと彼女はテクスチャーをつくりだすサウンド指向のミュージシャンだったんですね。だから、ドラム、ドラム・マシーン、ラップトップと楽器はかわっても、彼女のサウンドは同じ。それに対する時代の位相がかわっただけなのかもしれません。しかし、4分の1世紀をサバイバルしてきて、しかも輝きつづけている、というのは驚き以外のなにものでもありません。それに、ほんとうに素敵なマインドを持ったひとなんです。みなから愛され、慕われている。これ以上書くとラブ・レターみたくなっちゃいそうなんで、このへんで止めときますね…


イクエ・モリ 77年の3月にレックと一緒にニューヨークに来たでしょ。で、3ヶ月ぐらいして、レックはリディア(・ランチ)や、ジェームス(・チャンス)のバンドでベースを弾き始めて、彼は日本語だけで、わたしはちょこっと英語がしゃべれたから、通訳みたいにしてスタジオについていったら、だれかがイクエもなにかやるかって。で、ドラムの前に座ったら、手と足がバラバラに動いてエイト・ビートが叩けたのね。それを見てアート(・リンゼー)が「アッ、僕たちドラマーが必要なんだ」って(笑)。アートは詩人だったから、その時にギターをピックアップしたって感じだったし、ロビン(・クラッチフィールド)はアーティストだったから、楽器なんてさわったことがなくて、一本指でキーボードを弾いてた。もちろん、日本を出るまえからテレヴィジョンやパティ・スミスを聴いていて、ニューヨークは面白そうだなって憧れてたけど、自分がそこでなにかできるなんて考えてなかったのよ。最初は夢を見てるみたいで、普通の可愛い女の子だったわよねぇ(笑)。でも、リディアみたいなひとに影響されて、「あっ、これが現実なんだ。これが本当の生き方なんだ」ってリバレートされて、そう気付いた時には、もう日本には帰れないなって(笑)。DNAは、その年の終りからギグを始めて、アートとわたしはロック・シーンでやりたかったのね。でも、野次られたり、ステージにものを投げつけられたりするし、アート・シーンでやりたかったロビンがやめて、ベースのティム(・ライト)が入って、CBGBとかマックス・カンザス・シティでよくやってたわね。ギャラは百ドル儲けたら万々歳。その頃は家賃が百ドルくらいだったかな。で、ツアーも始めて、西海岸を2ヶ月ぐらいバンでまわったのが最初。あとはイタリアのボローニャはよく行ったわね。1回訪れたら1ヶ月ぐらい居座って。お金にはならなかったわねぇ。若かったからビジネスというより、とにかくツアーするのが楽しいじゃん(笑)。で、82年にDNAが終って、その頃にアートに紹介されてジョン(・ゾーン)に逢って。それまで、わたしはインプロしたことなかったのね。特にジョンのスタイルって、チェンジがたくさんあって、凄く速くて、最初はどうしたらいいかわかんなかったし、恥ずかしかったし。でも、その時にやってたひとが、フレッド(・フリス)とかトム(・コラ)とか、凄いひとばっかりだったから色々学びながら覚えていったのよ。そこからまたいろんな友達ができて、ひろがっていって…。ほんと、わたしって、ひととの出逢いに恵まれてるのよ(笑)。それで、ドラム・マシーンに出逢ったのが85年ぐらいかな。最初はドラムと一緒に使ってたんだけど、ドラム・マシーンの数が増えていって、ドラムはスネアだけになって、結局、10年ぐらいかけて、ドラム・マシーンが3台になって、ドラムが消えたと…。まあ、それも昔の話で、いまはラップトップだけになって…。最近のニューヨークは、いろんな違う音楽が盛んで、トニックだけじゃなくて、フォノメナとかイッシューとか、演奏する場所も増えたし、また面白くなってきてるんじゃないかな。今度、メゴからジーナ(・パーキンス)とのデュオを出すんだけど、エレクトロニカのひととかがそれを聴いてどう反応するか楽しみなんだけど。あとは、今年は、ジョンのエレクトリック・マサダとか、スージー(・イバラ)とシルヴィー(・クロヴァジェ)とのメフィスタの2枚目とか、他はなんだったっけ? 忘れちゃったけど、いっぱいリリースがあるし、ツアーもしなきゃなんないし、忙しいわねぇ。それに、最近、映像作品を作り始めてて、今日がそのプレミアなの。もう部屋のなかにコンピュターが4台よ。コンピューターがわたしの愛人みたいで…(笑)。

(2004年4月20日、窓からマンハッタンのビルの眺めがひろがるイースト・ヴィレッジのイクエ・モリのアパートにて)

『スタジオ・ボイス』(2004年6月号)掲載


Last updated: August 13, 2004