Japanese Free Improvisers

CD The Improvisation Meeting in Chicagoのライナーノーツ

文:杉本拓

シカゴ…今、即興、エクスペリメンタル・ミュージックのメッカとして世界中から音楽家が集まる街。1998年4月、当地を訪れた我々(杉本拓と大蔵雅彦)が現地のインブロバイザー達とおこなったラジオショー、ライヴ、ロフトてのレコーディングから、このCDは構成されている。日本では無名なミュージシャンも多いので、簡単に彼らの事や、又、ロケーションなども紹介していきたい。

1曲目に収められたトラックはノース・ウェスタン大学の中にあるラジオ局、WNUR-FMでおこなわれた杉本、大蔵.ジム・オルークに注目のテーブル・トツプ・ギタリスト、ケビィン・ドラムによる約40分のセッションの一部。我々の前に出演したタウン&カントリーはアコースティック・ギター、ダブル・ペースx2、ハーモニウムという構成でミニマル・フォーク・ドローンとでも形容できそうな演奏を披露し、シカゴ・アンダーグラウンド・シーンの幅の広さを感じた。このように幅広くエクスペリメンタル系の音楽をプログラムに取り入れている日本では考えられないラジオ局。

古本屋、マイオピックではその地下のスベースを利用して、毎週月曜の夜に即興音楽家によるセッションがおこなわれている。我々の参加したセッションからは4曲収録。タウン&カントリーのぺ一シスト、ジョシュ・アブラムス、彼はラップグループ、ザ・ルーツにかつて参加という変わった経歴を持つ一方で、シカゴのジャズのシーンともつながりがあり、サウスサイドにあるフレッド・アンダーソンのクラブ、ベルベット・ラウンジの日曜のセッションに彼の演奏を聴きにいったりもした。パーカッションのスティーヴ・バターズはガストル・デル・ソルのレコーディングに多数参加している、演奏、風貌共に実に渋いミュージシャンでオーケストラからウェディング・バンドまで何でもこなす。シカゴの裏ケン・ヴァンダーマークといわれるリード奏者のマイケル・コリガンも又、ケヴィン・ドラムと共に、その極めて独創的な奏法で一部の注目を集めている。ローレン・マザケインとアラン・リヒトのビッグバンドのレコーディングにケヴィンらと参加したらしい。手製のエレクトリック箏(ジャケットに見える)で参加したブレントはTV Pow、Liminal等のバンドやWheaton Research名義でのソロ(memeよりCDをリリース予定)活動をおこなう傍ら、ドラムス他のマイケル・ハートマンらとgentle giant recordsを経営。また、1998年春には新レーペルBox mediaを起こしハートマン、トッド・カーターらとのTV Powや杉本拓&ケヴィン・ドラムのスプリットCDをリリース。個人的にはとてもお世話になっている人物。チェロのフレッド・ロンバーグホルムは以前はニューヨークで活動しており、God is my co-pilotのライヴでチェロを弾く姿を偶然ニューヨークのクラブで観た事がある。長いキャリアを持つミュージシャンで録音も多く、1996年にアコースティック・チェロのソロアルパムPersonal ScratchをシカゴのEIGHT DAY MUSICよリ発表するほか色々なCDに彼のクレジットを見ることができる。ジム・オルークはアコースティック・キターを持って参加。弓で弾いたり、ギターのポディーにガムテープを付けたり剥がしたりしていた。

マイオピック・セッションは毎週すぺて録音されており、Box mediaよりいくつかの組み合わせのコンピレーションとして間もなくリリースされる予定である。

ロッククラプ、エンプティ・ボトルもこの手の音楽に理解があるようで、定期的に即興シリーズがおこなわれる他、カレンダーにNRGアンサンブルやエヴァン・パーカー等の名前を見つけた。ここでのライヴからは2曲。杉本、大蔵、ケヴィンとのトリオとジョシユ・アプラムズ、マイケル・コリガン、チャド・テイラーを含む6人編成を収録。ドラムのチャド・テイラーはシカゴ・アンダーグラウンド・オーケストラや、最近スリル・ジョッキーよりCDがリリースされたコルネットのロブ・マズレクとのシカゴ・アンダーグラウンド・デュオなどで活動。

最後の5曲はブレント、マイケル・ハートマンらが住む、ハンコ・ロフトでおこなわれた2日間にわたるレコーティング・セッションから。録音はTV Powのトッド・カーターで、彼もハンコ・ロフトの住人。ハーモニウムのジム・ダーリンとギターのベンジャミン・ビダは前述のタウン&カントリーのメンバーで、ブレントからの情報によると、Box mediaはタウン&カントリーのCDをリリースするらしい。ちなみにドラムスのアダムはベンの弟。エレクトロニクスのロヴ・ウィルカスもまた、その独創的な音響でファンが多いらしく、ブレントが強力にプッシュしていた。デイビッド・グラッブスはハーモニウムの他に、このディスクには収められていないが、アコースティック・ギターなどを弾いている。トランペットのエルンスト・ロングはシアトルの即興ノイズ・バンド、ブロウ・ホールに参加したこともあり、デイビッドのドラッグ・シティーからの新作The Thicketにもジョシュとともに参加している。尚、この二日間の録音からBox mediaもCDをリリースする予定なので、そちらもお楽しみに。

最後に、Tautology Recordsよりリリースされたコンピレーション、Sonance Quarryにはケヴィン・ドラムのソロに彼とマイケル・コリガン、パーカッションのマット・ウェストンとのトリオ、CORINEやフレッド・ロンバーグホルムとマイケル・ゼラングのデュオの他に、ジョシュ・アブラムスやベンジャミン・ビダも参加しており、このあたりのシカゴ・スタイルの即興を楽しむには最適のサンプラーであることを付け加えておきたい.

杉本拓 1998年11月