Improvised Music from Japan / Seiichi Yamamoto / Information in Japanese

無人島レコード

ザ・ビーチ・ボーイズ「ペット・サウンズ」

 " 無人島" というのは、一体どういうキッカケで行くものなんだろう。例えば乗ってた船が沈んだりして、小さなボートで漂流したあげく、心ならずも正体不明の孤島に漂着するなんて場合には、レコードなんか選んでる暇などない。それどころかプレーヤーも持ってないこともあるだろうから、まず、このケースは "無人島レコード " というテーマからは除外されなければならない。

 次に、リゾートや、学術調査、領海問題がらみの仕事などで、孤島へ行く場合。こういった時には、それぞれの渡島目的に応じて、持って行くレコードの種類も、おのずと変わってくるはずだ。だが、いずれにせよ、ここで重要な前提となるべきは、" 十分にライフラインが確保されている" ことである。すなわち、食糧も水も無ければ、人間は音楽を楽しむという余裕が生まれない。

 このケースで、私が無人島へ行くとすれば、リゾートでということになるだろう。滞在期間は二週間。これが、私自身にとって、もっともリアリティのある無人島行のパターンだ。それ以上は、レコーディングや、バンドの練習や、インターネットなどが忙しくて、とてもじゃないが休めないからだ。

 さて、二週間の " 骨休め" として無人島へ行く私が、何を持って行くかというと。
 やっぱり『ペット・サウンズ』なのだ。
 なんか、ちょっとヒネッて、サード・イヤー・バンドの『マジック・ミュージック』や、シャグスにしようかとか、いろいろ考えてみたのだが、結局、そういうケレンは止めて、堂々と正面突破することにした。二週間同じレコードを聴くという状況を想定した場合、なんのかんの言ったところで、最終的には、長年愛聴してきたものに落ち着くんじゃないだろうか。

 『ペット・サウンズ』は、とても多面的で重層的なアルバムである。加えて、危うさも持っている。それ故、十人十色、千差万別のさまざまな楽しみ方が可能だ。完全に飽きてしまうということが永久にない。聴く度に新たな発見が必ずある。何度もリピートして聴くことになるだろう無人島での生活に、まさにうってつけの作品である。単純に、そのサウンドや曲調が、周りの風景などに合うという側面も、もちろん無視できないところだ。

 でも考えてみると、自宅の部屋の中と、" 無人島" の違いというのは、あるのだろうか。そりゃあ状況的には全く異なるけれども、隣の人間の顔も知らず、世間と没交渉の生活を続ける毎日、それはある意味、無人島にいるのと同じのような気がする。周りに、とりあえず大勢いる人間、これは海である。そしてその中にポツンと浮がぶ部屋がある。その中に住まう人間の孤独は、むしろ巧妙に隠蔽されている分だけ、" 無人島" での孤独よりも深いものがあるかもしれない。  『ペット・サウンズ』は、もちろん " 都市の無人島生活者" にも有効に違いない。

山本精一

ミュージック・マガジン社レコードコレクターズ4月増刊号
「無人島レコード」2000年


Last updated: March 10, 2001