Improvised Music from Japan / Yoshihide Otomo / Information in Japanese

大友良英のJAMJMA日記

サンダル履きの貴公子 コル・フラー

大友良英

PIT INNでのNEW JAZZ FESで来日するミュージシャンを紹介するコーナー、今回はピアニスト「コル・フラー」です。


コル・フラーはとっても変わっている。とてもいい男なのに、なぜかいつ会ってもサンダル履きなのだ。しかもそのままステージにも出る。日本ではまったく無名のコルだけれど、わたしは彼の演奏が本当に大好きで、もう何年も前から機会があったら呼んで彼のギグを企画したいとずっと思っていた。

彼と初めて会ったのは数年前ロッテルダムでジョン・ローズがやったフェスのときだ。異形のヴァイオリン・プレイヤー ばかりを集めたこのフェスで彼が演奏したのは、なぞの足踏みミシンそっくりの形をした楽器で、ちょうどミシンにあたる部分にヴァイオリンのようなものがついていて、足踏みをするとギコギコと弦をこする音がする。なんじゃこいつ!…と思ったのが初日。で、2日目、彼は普通にピアノの前にすわっていて、なんだ弦じゃないじゃん…と思ったのもつかの間、彼はピアノの鍵盤はほとんど弾かず中のピアノの弦だけをいろいろな方法を駆使して演奏しだしたのだ。今までもピアノの内部奏法はさんざん見てきたけど、このときほど「あ〜、ピアノは弦楽器なんだ〜」って思ったことはなかった。しかも素晴らしく美しい演奏だったのだ。それはちょうどたとえるなら、まるでクリスタル・ガラスが音をたてているような透明感と、太い金属弦がぎりぎりと軋む音が同居するような、まさに、私好みの演奏だったのだ。

その後、彼とは1年に1回くらい、いろいろなところで会った。アデレード、アムステルダム、ケルン、、シドニー…。いつもサンダル履きで、ひょっこりコンサート会場に現れる。まったく気負いのないそのいでたちがオレは大好きだ。なぜか彼に会うといつも思い出すのは、70年代初頭のちばてつやの短編漫画『蛍ミナコ』にでてくる放浪の大学生…ってこんなこと書いてもだれも知りませんよね。わたしですら、少年マガジンでリアルタイムで読んで以来読んでないし…。でも飾らないけど、さわやかな感じが似てるんですよね〜。

で、昨年久々に彼のピアノの演奏をケルンで聴いた。いや素晴らしかった。ギターでヴァイオリンのような音を出したい時に使うイーボウという弦にあてる小さい道具をピアノの弦にあてて、それもひとつやふたつじゃなくて沢山、で、まるで魔法のような響きで会場をいっぱいにしていた。こんな素晴らしい演奏家が日本ではほとんど無名ってのはどういうわけだ。いや日本だけでなく、欧米でもミュージ シャンの間だけでその素晴らしさを噂されるような、一般的にはあまり知られていないタイプの音楽家なのかもしれない。CDだとハン・ベニンクと一緒にやってるやつとかDJ-COR名義のターンテーブルやエレクトロニクスをやってる作品もあるけれど、あの独特の世界のピアノ・ソロのリリースはないのだろうか。彼もまた、ひとつのことだけでは飽き足らなくて、いろいろなことをやってしまうなミュージシャンなのかも知れない。今回呼ぶ海外のミュージシャンはそういったタイプばかりだ。

ところで、彼はいったいどこに住んでる人間なんだろう? いつもEメールでつながっていたし、世界中で会うもんだからから、考えたことがなかった。アムスとシドニーをいったりきたりしているのは知っているのだけれど、案外彼はどこにも住んでなくて、あのピアノの響きのように、ふわ〜っと、世界中のどこにでも現れては消える別世界の貴公子なのかもしれない。いつもサンダル履きなのは、きっと身軽に空間移動するためだ。20日は初来日、初日本公演、あの独特の世界お見逃しなく。

(注)タイトル「サンダル履きの貴公子」ですが、さすがに今回の東京は寒いのでサンダル履きではないかも…。


1月19日(水)〜23日(日)
OTOMO YOSHIHIDE's NEW JAZZ FESTIVAL
新宿PITINN 電話 03-3354-2024
http://www.pit-inn.com/
20、21日の席はまだ余裕ありますので、座って聴きたい方はお早目の予約をおすすめします。19、22,23日もまだチケットありますのでご心配なく。ただしラスト2日に関しては、早めの予約をお勧めします。

1月19日(水)
●OTOMO YOSHIHIDE'S NEW JAZZ ENSEMBLE
plays Eric Dolphy「Out to Lunch」:
大友良英(g)、アクセル・ドゥナー (tp / from Berlin)、津上研太 (as, ss)、アルフレート・ハルト (ts, b-cl / from Seoul)、マッツ・グスタフソン (bs / from Stockholm)、Sachiko M (sine waves)、高良久美子 (vib)、水谷浩章 (b)、芳垣安洋 (ds, tp)

1月20日(木)
●アクセル・ドゥナー (tp)、井野信義 (b) DUO
●アクセル・ドゥナー (tp)、大友良英 (turntable)、Sachiko M (sine waves)、大蔵雅彦 (reeds) Quartet
●コル・フラー (p / from Amsterdam)、秋山徹次 (g)、マッツ・グスタフソン (bs) Trio
●コル・フラー (p)、大友良英 (turntable) Duo

1月21日(金)
●アルフレート・ハルト (electronics)、杉本拓 (g)、吉田アミ (vo) Trio
●マッツ・グスタフソン (bs)、大友良英 (turntable, g )、Solo & Duo
●大友良英作曲作品:芳垣安洋 (perc)、Sachiko M (sine waves)、伊東篤宏 (optron)、大友良英 (turntable)、宇波拓 (computer)、中村としまる (no-input mixer)

1月22日、23日(土、日)
●OTOMO YOSHIHIDE'S NEW JAZZ ORCHESTRA:
大友良英 (g)、アクセル・ドゥナー (tp)、津上研太 (as, ss)、アルフレート・ハルト (ts, b-cl)、マッツ・グスタフソン (bs)、青木タイセイ (tb)、石川高(笙)、コル・フラー (p)、Sachiko M (sine waves)、高良久美子 (vib)、水谷浩章 (b)、芳垣安洋 (ds, tp)
スペシャルゲスト:カヒミ・カリィ (vo) 他、特別ゲストあり

19日、20日、21日:各3,500円 / 22日、23日:各4,000円 / 5日間通し券:16,000円
新宿ピットインにて、チケット前売りおよび予約受付中


Last updated: January 15, 2005