Improvised Music from Japan / Yoshihide Otomo / Information in Japanese

大友良英のJAMJAM日記(99年1月)

(フリーペーパー「Tokyo Atom」に掲載。)

@月@日
うわ〜、なんだか年開け早々めちゃくちゃいそがしい。まずは吉祥寺にあるGOK SOUNDで10日間缶詰になってレコーデイング。往年の人気テレビシリーズ「ルパン三世」や「プレイガール」、「スーパージェッター」「悪魔くん」等のテーマ曲や挿入曲のリメイクをやっていたのだ。小西さんや永田さんならともかく、オレが「ルパン」をやるってのはちょっと意外でしょ。

実は、「ルパン」も含めどの曲も作曲をしたのは山下毅雄。60〜70年代にかけて数千曲ものテレビサントラを作った我らの大先輩の古い録音は、今聴いても超個性的でメチャクチャかっとんでるし、オシャレな上に、実験精神旺盛で、それでいて聴きやすい。知らない人はクラウンから出ている「PROFESSER TAKEO YAMASHITA / MISSION 1」を聴くことを勧める。ここに出てくる数々のアニメサントラはとにかく尋常じゃない。こんなもんを無意識のうちに聴きまくっていたオレみたいなガキが、何十年後にこんな音楽をやってるってのが、分かる人にはよーく分かる内容。単なるリスペクトではなく、山下毅雄は無意識のうちに脳にたたき込まれたオレのルーツミュージックなのだ。

で、偶然が重なって、山下さんが私の音楽を気にいって家で大喜びして聴いているなんて嬉しい事態に発展。さらに紆余曲折を経て今回の録音に。人生なにがおこるかまったくわからん。(このへんの経緯はかなり面白いので今準備中の山下毅雄の本が出るときに書くつもり)

はじめて無意識下にあった音楽のことを真剣に考えねばならぬ機会。いつも一緒に演奏している仲間から、オリジナルレコーディングで歌っている「ルパン」のチャーリー・コウセイ氏や「プレイガール」の伊集加代子さん、「ジャイアントロボ」では遠藤賢司さんにまで登場してもらい、オレとしては初めて自分のルーツミュージックのテレビのサントラに正面から挑んだ意欲作でもある。多分6月くらいに発売されると思う。大友のノイジーな音はちょっと…なんて思ってる人もこの作品はぜひ聴いてほしい。大ヒット中の「ルパン」リミックスに負けない自信あり。

@月@日
こんなことを書くと「大友もポップスに身を売ったか」なんて言いそうなあ なた。それは表面的には2つの点で大間違い。まずは、ポップスのどこがわるいんだって話。もう一つはオレは誰にも身なんか売っちゃいねーって話。でもそんな事よりもっと大切なのは、表面上のスタイルや売れ方の違いでポップスとかアバンギャルドとかって区別をする必要を感じてないってのが正直なところなのだ。この世にあるのは98%のろくでもないゴミと2%の宝物だ。ゴミと宝物の間にはジャンルの境界なんてない。オレにとっては「スーパージェッター」の音楽が好きだったのとおなじように、フリージャズも好きなら超音響系のMEGOも好きなのだ。

そのMEGOレーベルの連中が大挙してウイーンから東京にやってきた。新宿ICCでのMEGOイベントには4日間でのべ千人もの入場者。今まで地味に音響コーナーで渋く輝いていた軍団がいきなり脚光を浴びる様はなんだか異様。でも嬉しくもあった。これだけじっくりとあの独特の音を受け取ってくれる人がいるんだってことが嬉しかったのだ。サポートの池田亮司やメルツバウもすばらしかった。オレもSachikoMとのユニットFilamentで最終日のオープニングをつとめさせてもらった。そのままCDにしたいくらいの出来。この日会場にいた人には、Sachiko Mやオレが今なにをやりたいのか、好き嫌いはともかく、めちゃくちゃ明確に見えたはずだ。ここでも自信を深める。

それにしてもMEGO軍団来日前後は、東京が間違いなく世界一面白い音楽都市だった。同じ夜にはリキッドルームでもトランソニックやロスアプソン系のイベントがあったり、吉祥寺ではフランス・レコメンの巨人フェルディナンのニューバンドを中心に連日すごい事になってたし、高円寺では「異形の王国」のイベントで山本精一やマゾンナ、コスモスが気を吐いていた。ミルクにもMEGOやジム・オルークが…。新しい風が気持ち良い。世紀末が面白いってのは本当かも。


Last updated: January 22, 1999