Improvised Music from Japan / Yoshihide Otomo / Information in Japanese

大友良英のJAMJAM日記(2004年3月中旬〜5月中旬)

めちゃくちゃご無沙汰してます〜。みなさん、お元気ですか。いろいろご心配かけましたが、わたしのほうは、なんとか元気にツアーを続けております。

今これを書いているのはベルリン。初夏のすがすがしい風がふいてます。今年の欧州の5月は、外でカフェをするのにはちょっと寒くて、夜なんかは息が白い日もあったのですが、6月にはいってやっといつもの季節にもどりました。今泊まっているのは旧東側のプレンツバウアーベルグ。ほとんどのわたしと関係するミュージシャンはこの界隈に住んでいて、ライブもスタジオも大抵はこの界隈。今日もあたりを歩いていたら、アンドレア・ノイマンとアネッタ・クレブスにばったり出くわしました。
「やあ、やあ、調子はどう?」
「今日はわたしのアパートで、ジェローム・ノッタンジェ達がレコーディングしているわよ、夜に、皆でごはん食べない?」
「あれれ、いいねえ、そうしよう、そうしよう」
なんて調子で、毎日がのんびりと進みます。

ここではよく歩くおかげで、わたしの万歩計も1日5km〜7km。あ、そうそう、先々月にJAMJAMで書いた万歩計はちゃんと今も続けていて、毎日かなり意識して歩いております。おかげで腰のほうはだいぶよくなりましたが、頚椎のほうは、度重なる長距離フライトで、やっぱりまた悪化していました。そんなわけで、すでに入っている8月までは欧州のツアーをこなして、それ以降、来年2月までは、欧米の仕事は全て断って東京にいることにしました。ツアーを頻繁にしだした90年代の初頭以降、こんなに長く日本にいるのは今回が初めてになります。この間は、なるべく仕事を少なめにして、体を直すことに専念すると同時に、自分の作品、とくに今まで出してこなかった即興によるターンテーブル・ソロとギター・ソロの録音、念願だった大編成による音楽の録音、いくつかプロデュース・ワーク、それに小さなフェスのようなものをPIT INNやキッド・アイラックでやることを考えています。詳細はまたJAMJAMで決まり次第お知らせしますので、楽しみにしていてください。

あ、そうそう、これも念願のFilament BOXがようやく出ました。20テイクほどのライブ録音から厳選した4枚と、スタジオ録音1枚の5枚組です。特にスタジオ録音はSachiko Mとわたしが完全に別の部 屋で、互いの音をまったく聴かずに60分間録音、一切の編集を加えず、それをそのままCDにしました。今の時点で発売されている音源の中では、間違いなくこのスタジオでの録音がわたしのベスト…というか、正確にはわたしが一番やりたいことにもっとも近い姿の音楽になっていると思います。今現在、欧州を旅しながら模索しているのはさらにこの先で、それはきっと次に録音されるターンテーブル・ソロでお聴かせすることが出来ると思います。

さてさて、御託はともかくほっぽらかしてた3月中旬以降の日記です。


3月@日
サンフランシスコのアスフォデル・レーベルのオフィスに2週間泊り込んでDVDの制作。今回はわたしのソロ演奏の撮影と録音。撮影されるのはすごい苦手。3人のカメラマンのうち2人が女性で、しかもはっとするくらいの美人。撮るほうと、撮られるほうが、どう考えても逆のような気がする。ターンテーブル奏者で心臓外科医でもある朋友マーチンNGや、DJミックスマスターマイクなんかも、撮影を見に来る。オフィスではカルコフスキーと一緒だった。今回は映像も音もたくさん素材をとっただけで、編集やDVDの組み立てはこれから。これを1年以上かけてDVD作品にしていく。詳細は言えないが、かなりインタラクティブなものになる予定で、どういう音楽になるかは、見る人がこまかくパラメータを設定して決めることが出来る。しかもかなりランダムな組み立てになるので、同じ設定でも2度と同じものは見れない、聴けないようなものにする予定。これについては、また来年に詳細をお伝えします。

4月@日
SFから帰国早々すぐにソウルに4泊滞在して3コンサート。今回はI.S.O.のライブと、ソウルの若手のインプロヴァイザーとの共演。そしてソロ。コーディネートしてくれたのはソウル在住のミュージシャン の佐藤行衛。彼はソウルのレストラン・ライターでもあるので、旨い店を実に良く知っている。いや〜もう音楽といい食といい大変お世話になりました。ありがとう。今回の一番の収穫はなんといってもソウルの若手のノイズ・メーカー達に出会えたこと。特にチェジュンヨン (Choi Joonyong) とホンチュルキ (Hong Culki) の2人(この2人でアストロノイズというユニットを作っている)は素晴しかった。CD プレイヤーを解体して中に手をつっこんで演奏したり、テープやラジオ、ラップトップを駆使したりして、ノイズや音響以降の何かを見せてくれた。この2人、今度日本に来るときはぜひ東京でもライブの企画したいな。ライブには連日アルフレッド・ハルトも来てくれる。カン・テーファンさんも美人の娘さんと2人でひょっこり来て下さった。カンさんと、あとはパク・ジェチュンを作秋インタビューしたものが、多分夏までには出る雑誌『Improvised Music From Japan』の新しい号に乗るので、ぜひ読んでみてください。非常に興味深い内容になっていると思います。

4月@日
帰国早々安藤尋監督の短編映画の録音。メンバーは江藤直子とベースの西村雄介。安藤さんとの仕事はいつもいいもんが作れる。

4月@日
発熱。おまけにおなかに大きな、ものすごくいたいおできのようなものが。この状態でキッド・アイラックで一楽くんとの3デイズ。非常にたのしく演奏したのだか、それでも目指すものからはほど遠い感じがしていらいら。実際、ここのところ数ヶ月、正確には1年以上前から、自分の演奏が気にいっていない。時たま、たとえばFilament BOXの録音や中村としまるとの『good morning good night』なんかで、何かが見えてきそうになるのだけれど、ライブになると、もどかしいくらい見えなくなる。そのことを一楽くんに話すと「大友さん、あのね、もしこの3日間で、本当に新しい何かが見えたとしたら、そんなもんいんちきですよ。大友さんは昔にもどりたくない…と言うけれど、実際、今日の演奏は確かに、昔のような音をしていたけど、明らかに音響を通過してこなきゃ出来ない要素もたくさんあったと思いますよ。あせらずに続けましょう。そういう中から自然に次がでてくると思いますよ。ね」。たまにはいいこと言いやがる。

4月@日
発熱と痛くてでかいおできのまんま京都へ。山本精一、勝井祐二それぞれとDUO。これも非常に面白かった。山本ちゃんとはギターDUOだったのだけれど、2人ともほとんど弦にさわらず、ひたすら巨大な音量で60分間フィードバック。あまりの低音に通報されて警察まできた。演奏後は京都の仲間と毎日打ち上げ。あはは、発熱しても、痛くても気持ちだけは元気。

4月@日
帰京後すぐに皮膚科でおできの摘出手術。これがもう痛いの何の。フンリュウ(漢字がわからない)という名の良性腫瘍で、わりとポピュラーな病気だから経験者結構いると思うんですが、まじ痛い。やっとの思いでい家にもどって2日ほど寝込む。

4月@日
手術痕の傷口がふさがらぬまま6週間の欧州ツアーへ。医者からは一応絆創膏やら注射器に入った膏薬やら、抗生物質やら鎮痛剤を処方してもう。最初はスイスで3箇所、初のジャズ・ギターソロ・コンサート。まずまず、だんたんではないだろうか。その後はイタリア、サルディニアと、フランスのリールの大学で、それぞれ短期集中ゼミ。最近教える仕事が増えてきたのは年齢のせいか。いつもながらイタリアも、フランスも、おいしゅうございました。ソウル・ツアーとあわせて、途中病気だったにもかかわらず2kgは太ったような。

4月@日
著作権改正にともない輸入盤が規制の対象になるという、とんでもない悪法がすんなり国会を通過しようとしている…というメールが佐々木敦をはじめ、何人かの評論家、音楽関係者からくる。詳細をネットで見てみると、やっぱりとんでもない。小野島大さん等が反対運動ののろしをあげたので、わたしも賛同することにする。これも自民党と公明党を勝たせ続けているつけだ。これについては言いたい事がたくさんあるので、近々意見を配信したいと思う。とにかく皆にお願いしたいのは選挙に行ってほしい…とういことだ。選挙の投票率を上げることが現政権にとっては、デモや署名以上に、一番痛手になるからだ。その理由がわからない人は…そのくらいは自分で勉強してくれ。

5月@日
ドイツ、ケルンにて3日間にわたりアンプリファイ・フェスティバル。ここで中村としまる、Sachiko M、キース・ロウと合流。彼等とはこれから2週間一緒だ。ケルンでは12人のエレクトリック奏者が3日間にわたって様々な組み合わせのカルテットで、即興を行った。最初にやったメゴのピタ、クリスチャン・フェネス、Sachiko M、わたしのセットはたいして期待もしてなかったのだが、意外にも静かで繊細な展開になり非常に面白かった。でも総じて、全体的にはものすごい不満が残った。これだけ、欧州を代表するようなエレクトリックの大御所達があ集まっているのに、はっきりいって面白くない。だいたいは静かにはじまり、少しづづ盛り上がって、そのうち40〜80Hzくらいの低音がドローンのようにシーツをつくり、その上で、まるでフリージャズでもやるかのように中高音が暴れて、いい気持ちになったところで徐々に収束していくいつものお決まりの展開…あ〜もう、反吐が出るくらい退屈! 特に全員で演奏する際は最悪で、キース・ロウがせっかくいい曲を書いているのに、みな好き勝手に即興をしやがる。自由ってなんなんだ? 頭わるいんじゃね〜か、お前ら…とすら思ったくらいだ。実際最終日の終演後はあまりに不愉快だったんで何をいわれても「最悪。東京にもどりたい!」としか返答しなかった。おっと、いけない、いけない、冷静に、冷静に。え〜と、無論いい演奏もありました。特にオランダのインサイド・ピアノ奏者のコル・フラーはいつ見ても素晴しいし、ノルベルト・モスラングの誰にも似てないあの世界は最高だし、中村としまるやSachiko Mの近年の演奏は、彼等の音楽が発揮出来る場においては例外なく素晴しい演奏をする。そうそう楽屋には連日デヴィッド・シルビアンもきておりました。オレより年上だと思うんだけど、若々しくて、なんか全然おっさんくさくない。そういえば昨年でた彼のソロにはデレク・ベイリーも参加していたっけ。

5月@日
キースの運転するバンでベルリンへ移動。ここで10日間にわたって同じくアンプリファイ・フェスが行われる。ただしケルンと違い、毎日のようにプレンツバウアーベルグ周辺のいろいろな会場で、アウト サイド・フェスのライブも行われる。最初は、50人も入ればいっぱいになるようなギャラリーでSachiko Mとアネッタ・クレブスのDUO。これが本当に素晴しかった。ケルンでの消化不良を吹き飛ばしてくれるような名演だった。今年頭のアネッタの来日公演の際に発揮しきれなかった彼女の本領を地元で思う存分発揮した感じだ。スピード感ある不連続な物音がなんの起承転結も情緒もなく、大きな音量から小さい音まで、おかまいなしに行きかう。おもわず「これだよ!」って叫んでしまった。

この後ベルリンでは様々な名演に出逢うことになり、自分自身にとってもとても大きな変化に出くわすことになるのですが、それについてはまた次回に。


ベルリンでは6月12、13日にわたしの作曲作品『コールレシオ』の初演があります。詳細は以下です。ベルリン在住の方はぜひいらしてください。

space+place, 12./13.06.2004
20:00 - 24:00 Uhr + Oberbaum City, Berlin
world premieres by Mark Andre, Robin Hayward, Pierre Jodlowski/Pascal Baltazar, Georg Katzer/Rose Schulze, Andrea Neumann/Christof Kurzmann, Jerome Noetinger/Lionel Marchetti, Ana Maria Rodriguez/Steffi Weismann, Otomo Yoshihide, KNM Berlin/Ensemble Phosphor/Sabine Ercklentz/Tony Buck/Merle Ehlers
Oberbaum City
Rotherstr. 11
10245 Berlin
U & S-Bahn Warschauer Strase, Tram 20
information and tickets:
http://www.space-place.org
+49(0)30-203092101


Last updated: June 11, 2004