Improvised Music from Japan / Yoshihide Otomo / Information in Japanese

大友良英のJAMJAM日記(99年3〜4月)

(フリーペーパー「Tokyo Atom」に掲載。)

@月@日
4カ月ぶりのツアー。スイスの会場でカナダのターンテーブル奏者マルタン・テトロやモリ・イクエさんに出くわす。開口一番いきなりイクエさんにJAMJAM日記のことを言われる。昨夏ポルトガルでのことを書いたやつだ。「読んだわよ。どうせ私達は観光気分のNYのミュージシャンですからね…」うひゃ〜。まさかイクエさんの目に止まるとは。こういう時のイクエさんは恐い。あのNO NEW YORKの裏ジャケの恐い顔だ。それにしてもさすがはTOKYO ATOM, 世界中で読まれてるんすねえ。やたらなことは書けないなあ。(冷や汗)あのときはアート・リンゼイのいいかげんとしか見えない演奏とそれを持ち上げる主催者にかなりムッと来て書いたのだけれど、メンバーのイクエさんやアンソニー・コールマンがその状況を必死に変えようとして頑張っていたことも知っている。十羽ひとからげの言い方はよくないよな。イクエさんごめんね。フォローの意味で言うわけじゃないけれど、イクエさん、マルタンそしてサンプラーのジアン・ラブロッセのカナダから出ているCDは大名盤だ。とにかく美しい。3人の現在の方向には、強いシンパシーを感じる。

@月@日
NATO軍のユーゴ空爆のニュースが飛び込んでくる。ここからはわずか数百km先のできごとだ。爆撃のあったベオグラードやノビサドには2年前に行ったばかり。あの時は内戦が終わったばかりで、皆これから自由になんでもできるんだって雰囲気にあふれていて、僕らもいるだけで幸せだった。友達も沢山できた。5月には再びベオグラードでフェスがあって僕らも行く予定だったが…。

@月@日
ユーゴの主催者から悲痛なメール。くわしくは書けないが、無論フェスはク リントンの爆弾とともになくなってしまった。ホワイトハウスでフェラチオしてるほうがずっとマシだったのに、そう思わねーか大統領さんよう。もうこちらからも連絡はとれないし、とらないほうが良いと判断。なにしろオレはアメリカの太鼓持ちの国のパスポートを持ってNATO軍の国々でコンサートツアーをしてるんだから、下手に連絡でもとれば相手に迷惑をかけかねない。

@月@日
連日CNNやBBCで空爆と難民の映像がながれる。知らない人達の死はニュースの中の話ですんでしまうけれど、この状況に友達がいるのにオレにはなんにもできない。音楽は直接的な暴力に対してはまったく無力だ。あの2年前のGROUND-ZEROのメンバーとともにユーゴの友人達と過ごしたベオグラードでの平和な日々はなんだったんだろう。

@月@日
未確認だが、2年前同じパーティ会場にいて皆とも仲良くしていた大学生の女の子の一人が死んだらしい。正義とか国家とか民族とか、えらそうな勇ましいスローガンなんかクソ食らえ! ナムジュンパイクの名言「宗教で救われた人より殺された人のほうが多い」を思い出す。「国家」も「正義」も「民族」も耐用年数をとうに過ぎた宗教じゃねーか。

@月@日
東京にもどってきて一週間。桜が満開だ。寒さと時差ボケで花見はパスした。たった一週間で、まるでユーゴのことが遠くの事に見えてくる。東京のせいか、それとも時間と距離のせいか。いさましそうな人が都知事になった新聞記事の片隅に、ユーゴの民主勢力で反政府系の新聞社社主暗殺のニュース。やっぱりベオグラードで反政府勢力狩りがはじまっているのだ。血の気が引く。20世紀、人類はあれだけすばらしい映画や音楽、美術や小説を生み、あれだけ深い哲学を生んだのに、最後にこれでいいのか? ねえミロシェビッチさんよう。あんたの荒れ果てた心にアストラット・ジルベルトの歌うコルコバードを一輪の花とともに送ってやりたいぜ。ビックコミック連載の水木しげる「カランコロン漂泊記」に彼の戦争体験が語られている。「いさましさ」の馬鹿ばかしさを深い人間洞察の淵からひょうひょうと描いてしまう水木さんの漫画の中に、それでもオレは20世紀の希望と良心を見る。友人達よ、みんな生き延びてくれ。生きててさえいれば、戦争が終わった時にいつでも演奏にいく。


Last updated: April 14, 1999