Improvised Music from Japan / Yoshihide Otomo / Information in Japanese

大友良英のJAMJAM日記(2002年7〜8月)

@月@日
DCPRGでフジロックフェス。大人数のバンドツアーはなんだか部活のようで楽しくもある。慣れない真昼間の演奏を終えて温泉につかったあとは卓球大会。みなヘタクソなりにもすこしづつ上達してきたりして、すげえ面白かった。卓球いいっすねえ。

@月@日
中野富士見町のplan Bにてポータブルオーケストラのワークショップ。楽器を手にしたこもない人からそこそこ演奏できる人まで3回のワークショップでのべ180人の方が集まってくれた。別に新人を発掘するとが、次代のミュージシャンを育てる…みたな目的があるわけではない。音楽は音を出す者だけが特権的に作るものではなく、実は音を聴く者が発見することによって初めて音楽になる…というしごく当たり前の事をやってみたかったのだ。音を出す人と聴く人が同じ人達で構成されていて、音の出し方に最低限のルールを設けてあとは聴く力によって音楽を発見するような方法。オレ個人はすごく有意義な時間を過ごさせてもらったけど、参加してくれた方々にとってはどうだったのかな。録音したテープも面白いんで、いつか、機会があればリリースしたいと思っている。

@月@日
3日間だけ休みをとって長野の温泉へ。温泉はすばらしいけれど、早起きしなくちゃならないのがつらいなあ(苦笑)。でもボロボロだった体をだいぶリペア出来ました。食のほうは信州の蕎麦を楽しみにしていたのだけれど、ぐっと来る店には出会えず残念。そのかわり松本市で偶然はいった洋食屋…たしかオキナ亭って名前だったと思う…がすばらしく旨かった。いろんな国のいろんな旨いもんを食ってきたけれど、結局好きなのは蕎麦と日本の洋食屋のハンバーグ定食だったりして。舌ばっかりは保守的に出来てやがる。

@月@日
新宿PITINN。敬愛するピアノの南博さんのセットにニュージャズクインテットがゲストで参加する。南さんは実はニュージャズクインテット結成の直接の切っ掛けを作ってくれた人でもある。さかのぼること4年近く前。南さんとベースの水谷浩章がやってるPITINNでのセットにオレと津上研太がゲストでよばれたことがあって、この時客席にいた菊地成孔といっしょに打ち上げにいって朝まで皆でわいわいやった流れで、翌月に『山下毅雄を斬る』のルパン3世とプレイガールのレコーディングにこの打ち上げメンバーを呼んだのが、そもそもの始まりなのだ。とはいえ、今日はちょっと難しかった。ピアノとギター、同じ和声楽器同士の共演がこんなに難しいもんとは、予想以上だった。いつもならばギターの音色と和声で作れる世界が、うまく機能しない場面が多々あったり。これはジャズに限らないことだが、音響的なアプローチを徹底すればするほどセッション的な現場は機能しなくなる。南さんのピアノ、特にその音色は大好きだけれど、好きなのと一緒になにかをやれるかどうかはまた別の話だ。逆の見方をすればONJQがバンドとしてそれなりの世界を作り出してきている証拠のようにも思える。

@月@日
帯広。現代美術展「デメーテル」の会場でソロ。出発前、デメーテルを見てきた友人から「臭いわよ〜」と言われたとおり、会場は競馬場の巨大な馬小屋群で、かなり臭う。で各馬小屋を使ってヨーコ・オノやインゴ・ギュンター等名だたる美術家が工夫を凝らした作品を展示。オレが好きだったのは3面スクリーンを使ったシネノマドの映画と、以外にもローテクを使ったインゴ・ギュンターの馬の影絵のような作品、そして帯広の人100人の声が暗い馬舎にマルチスピーカーで響く岩井成昭の作品。普段あんまり使わない部位の脳が刺激されて作品を見ながら次々とアイディアが出てきた。ソロは幸い馬舎ではなく特設会場で、臭うこともなく伸び伸びとやらせてもらった。ちなみに運営している人達はかつて四谷にあったアートスペースP3の人達で(ここでは90年代前半ありとあらゆる実験音楽をやっていた)、すご〜く久しぶりに再会。みな元気そうでうれしい。

ところで今回初めて知ったのだけれど、帯広の街を歩くといたるところに「豚丼」の看板。なんだかぱっとしない名前だけれど、ここの名物なのだそうだ。で、せっかくだからと試しに注文してみると、豚肉の蒲焼のようなものがメシにのっているだけで…う〜ん期待はずれかな…と思いきや、これがなかなか旨い。かなりいけるのだ。結局2日間の滞在中2回も食ってしまった。帯広には有名な六花亭の本店もあって、ここの洋食屋に行こうとおもったら残念ながらレストランのみ定休日。で、あきらめてここでしか手にはいらないパリパリシュークリームを購入、これも旨かった〜。

@月@日
昨日来てくれた札幌NMAの沼山さんの車で札幌へ移動。アノード全曲の世界初演はいよいよ明日だ。この作品は今オレがやっている作品の中でも、最も実験的なもの。今回この企画をやってくれた沼山さんとは実に18年もの付き合い。まったくの駆け出しの頃から言葉に出来ないくらい世話になってきた。落ちていたときに札幌の沼山さんのところに逃げ込んだこともある。沼山さんは70年代から札幌で様々なコンサート企画を私財を投げ打ってやってきた人で、日本のジャズや即興、現代音楽系のミュージシャンで彼の世話になった人の名をあげたらキリがないくらいで、無名だった頃のジョン・ゾーンやクリスチャン・マークレー、カン・テーファンといった人達のコンサートも積極的に企画してきた日本のニューミュージック界の影の立役者の一人でもあると同時に、有名なピアノの調律師でもある。おだやかでダンディな見た目と人格とは裏腹に50歳代後半だってのにカーステレオからはアブストラクトなテクノみたいのがガンガン流れているし、おまけに強烈な勢いで車を走らせることでも有名で…なにしろ雪道の一般道で平気な顔をして100K以上出したりするんだから…そんなわけで怖がりのオレは沼山さんの車に乗るときは、極力寝るようにしている。おっとっと、車の運転が荒い話をしたいんじゃなくって、沼山さんがクールで熱い人だってことを書きたかったのだ。実際良い演奏を出来なかった時の沼山さんはかな〜り怖いし、逆に自分が信じる音楽への情熱も並じゃな い。今回は車にもうひとり、北海道ツアーのコーディネートをしてくれたキャロサンプの野田っちも乗っている。彼との付き合いも沼山さんに負けないくらい長いうえに、やっぱり言葉に出せないくらい世話にもなってきた。東京のアンダークラウンドシーンに無くてはならない人物だ。めちゃくちゃクセのある人格と声、それに顔の持ち主で、誤解されることも多い奴だけれど、なんだか憎めないというか、やっぱり私財を投げ打って音楽と心中でもしそうな人生をみているとリスペクトなんだよな〜。なんてこんな事を書いていると次あったときあのドでかい声でなにいわれるか分らない。なにしろ世界中でも現時点でアノードの企画をやってくれるのは彼等だけなんだから、憎まれ口を叩くのはこんくらいにしとこ。山口から一足はやくドラムの一楽儀光が札幌入り。沼山宅で朝まで話し込んでしまう。一楽さんもその音楽とともに相当に個性の強い人間で、なんだか個性の強い人間だらけになってきた。明日は他のやはり個性のやたら強いメンバー達総勢10名がそろっていよいよアノードの初演だ。


Last updated: September 20, 2002