Improvised Music from Japan / Yoshihide Otomo / Information in Japanese

大友良英のJAMJAM日記(98年7月)

(フリー・ペーパー「Tokyo Atom」に掲載。)

@月@日
六本木の俳優座で久里洋二のアニメ上映の幕間に演奏。久里さんのすごさを改めて実感。何百、何千の女のおしりや、パンティを見せられ、時にヒクヒクと笑いながら、時に息子をたたせながら、なぜかオレは新しさのこと、時代のこと、そして自由ってことについて深く考えさせられた。ついでに脳裏には「進歩と調和」の万博と、11PM、セブンティーズのストリップ劇場やライヴハウスやらが次々フラッシュバック。「女の前では、もうひたすら謝るだけです」の久里さんの深い一言の中に喜怒哀楽の万華鏡をオレは見た気がする。それにしても人類は本当に進歩なんてするのかね?

@月@日
吉祥寺のGokスタジオで、ギュンターミュラー、大蔵雅彦、杉本拓、松原幸子、一楽義光、吉田アミと公開レコーディング。初の試みだ。出演者はいずれも私が今一番敬意を持って興味ある人達。それぞれの一音一音が強力に私の脳髄に突き刺さる。新しい音楽の生まれる瞬間なんて、めったに出会えないけど、この2日はそんな感じだった。客の前で録音ってのは緊張感があってよい。改めてオーディエンスのもたらす緊張感が、どれだけ音楽を作るのに重要かを認識する。

@月@日
東京滞在もわずか数日、偉大なるターンテーブルの先人クリスチャンマークレイとデュオのレコーディングとミックスをしにサンフランシスコへ。リスペクトしている相手との仕事は本当に嬉しい。明日からスプーキーやスクラッチピックルスで知られるアスフォデルスタジオにかんずめになって9日間のレコーディングが始まる。エンジニアはミックスマスターマイクも手がけるクリストファー。彼はゴルゴ13に出てくる偏屈ですご腕の拳銃職人に顔も感じもそっくり。このタイプ好きなんだよな〜。

@月@日
レコーディング3日目。空調のないサウナのようなスタジオで、時差ぼけと戦いながら朝から深夜までネイティヴの英語の中で自分を主張しての仕事に身も心もへとへとになる。オレ英語ほんと下手だしなあ。その上クリスチャンとクリストファーの間もぎくしゃくして、しっくりこない。オレはオレで、クリスチャンの編集と焦点のつけかたに戸惑う。彼と私がこんなに違うとはおもってもみなかった。先行き不安。

@月@日
レコーディング7日目。この日、初めてクリストファー、クリスチャンと私の3人ともが満足いくミックスが1曲だけ仕上がる。なんとか方向が出てきた。なんだか互いが少しだけどわかってきた気がする。なのにこれからって時にあと2日しかない。

@月@日
レコーディング9日目。わずかの満足ゆくミックスと、多くの失敗作をつくって時間切れ。でもはっきりとアルバムの方向は見えてきた。クリスチャンはNYで、私は東京で続きをやって、サンフランシスコでクリストファーがそれをまとめる事になる。やっといいアルバムが出来そうな予感がしてきた。

@月@日
誕生日だってのに1日中飛行機のなか。せっかく時差ぼけが直ったと思ったら次の時差ぼけの始まりだ。目的地はポルトガルのリスボン。ここのExpo98で演奏する。子供の頃あんだけ行きたくても遠くて行けなかった万博に、今頃になって行きたくもないのに行くはめになるとは思ってもみなかった。リスボンにも太陽の塔はあるんかいな。人類は本当に進歩してるのか、じっくり見ることにするか。


Last updated: October 17, 1998