Improvised Music from Japan / Yoshihide Otomo / Information in Japanese

大友良英のJAMJAM日記(2004年8月)

暑中お見舞い

どもども。もう、本当にご無沙汰しちゃってます。でもって、残暑お見舞い申し上げます〜。

今日東京は雨、数十日ぶりに真夏日ではなくなりそうですが、みなさんいかがお過ごしですか。わたしのほうは8月9日に帰国。4月末からの長い欧州ツアー(途中短い帰国はしましたが)をやっと終え、ちらかり放題ちらかった5畳の自宅スタジオでこれを打っております。あ〜部屋かたづけなくちゃ。で、長いツアー、成果もそれなりに大きかったので、いくつかご報告を。

まずは、この数年ずっと活動をつづけてきたONJQ(大友良英NEW JAZZ QUINTET)ですが、1月東京、7月京都、ポーランド、南フランス、8月ポルトガル・・・と、それぞれまったく異なる編成でいくつかコンサートをこなす中で、この先の方向がやっと見えてきました。

以下メンバーに送ったメールから抜粋します。


ツアーお疲れ様でした。音楽的にも非常に有意義なツアーでした。今回やってみてやはり今自分の興味は小編成のJAZZではなくて、これまで自分のやってきたCathodeやAnode、ONJQ、そしてさまざまな歌ものプロジェクト(山下毅雄とか)をやや大きめの編成で統合していくような方向にいっているんだなというのを実感できました。クインテットも十分すぎるくらい面白かったのですが、そこで起こることは、やはり、ちょっと自分がこれからやってきたいこととは違うかな…というのも実感しました。具体的にはCathodeで起こっていたようなことがJAZZの中に音響現象として溶け込む…というような甘っちょろいものではなくて、もっと明確にCathodeやAnodeで起こる音響現象のようなものが音楽のベースになるような形で、歌を含むアンサンブルを再統合していくことが今後のこのバンドの目標かな…ってところが自分の中で明確になったような気がします。なんか漠然としていてわかりにくいかもしれませんが、京都、ポーランド、マルセイユの3つのGIGの中にその萌芽をたくさん見つけられて今はそのことに夢中です。

というわけで、今後はバンドの基本をONJQのメンバーにプラス高良久美子、Sachiko Mの7人体制にして、これに随時、状況に応じて、ヴォーカル、雅楽、他のホーンやその他の楽器が入る…という方向にしようと思っています。名前は大きさに応じて Otomo Yoshihide New Jazz Ensemble、Otomo Yoshihide New Jazz Big BandまたはNew Jazz Orchestraを使い分けようかなと思ってます。

まずは、アンサンブルの根本をつくるためにCathodeやAnodeの時のように、やはりPAやモニターのことを根本から考えないと…と思っています。現実にはPAを使わざるを得ないのですが、近年、あの遠近感の欠如した音と、音程とリズムのストラクチャーさえ伝われば程度の質の悪いモニターの音がますます苦手になってきていて(実際80Hz以下と8Khz以上の音がちゃんとでてるとは思えない)というか、そういう状況で、演奏をするのが難しく感じられ、どうにかしないと自分でもたえられなくなっています。

遠近感ある複数の音が交わる繊細な状況がちゃんと聴き取れないと、音楽が成立しないような現場を作ることからはじめたいと思っています。(以下略)


というわけで、今後は7人体制のNew Jazz Ensembleを基本に、状況に応じて、Phewさんやカヒミさんといった歌手がはいったり雅楽の楽器やホーンがはいったりという編成を考えています。

まずは10月に7人編成でのコンサートを横浜、東京でやったのち、1月下旬にはベルリンのトランペッター、アクセル・ドナーほか何人かの欧州のインプロバイザーを加えた10数人編成で(まだ発表できませんが、すごいメンバーが参加してくれそうです〜)東京で何回かライブ(おそらく内容を変えて3〜5デイズにする予定です)をやった後、スタジオレコーディング、で、5月発売と同時にONJE欧州ツアーという流れを現在考えて おります。詳細、内容については秋以降に順次発表していくつもりです。

それから大きな編成のほうではJAZZの流れとは別に、さまざまなジャンルの、さまざまなスキルの人たちが参加できるポータブルオーケストラの拡大発展版のようなものを今構想しています。具体的には昨年9月ロンドンでのアンコンフォタブルオーケストラやら、さまざまなワークショップでやってきたポータブルオーケストラ、さらに今年5月6月、フランスとドイツでやった現代曲「コールレシオ」の経験をもとに、来週29日に都立大学の「めぐろパーシモンホール」で発表する60人編成の「Grid」、20人前後で演奏する「Coal Retio」がこの試みの第一弾になります。詳細は http://www.persimmon.or.jp/ の「誰でも参加できるポータブルオーケストラ」の中の29日公演のところを。17時開演、入場料は1000円です。

歌もののほうでは、さがゆきさんが中村八大の作品ばかりを歌うアルバムのプロデュースをやります。さがさんは中村八大バンドの最後の専属歌手だった人。中村八大の作品は、60年代にわたしがもっとも影響を受けた音楽で、山下毅雄を裏の昭和に例えるなら、 彼はちょうど表の昭和史のような存在です。発売はFilament BOXを出してくれたFMNサウンドファクトリーから(なんたる幅のひろいレーベル)。おそらく12月か来年に。 それにだいぶ先行してレコーディングメンバーでこんなライブを行います。

9月6日 新宿
『さがゆき Plays 中村八大』
さがゆき(vo)、大友良英(g)、栗原正己(リコーダーほか)、近藤達郎(key)、関島岳郎(tuba)、芳垣安洋(ds)、高良久美子(vib, perc)

さらにもうひとつ、大きな編成とは別のベクトルで、ソロのプロジェクトも動き出しました。まずは、20年以上も演奏しつづけ、自分のメインの楽器でありながら、今まで一度もフルアルバムを出してこなかったターンテーブルのソロを秋に録音する予定です。大きなきっかけは、今年5月のベルリン滞在中にギタリスト、アネッタ・クレブスのアパートでやったホームコンサートでのターンテーブルソロでした。このとき会場には30人ほど。その半分くらいは友人のミュージシャンでキース・ロウやアクセル・ドナー、アンドレア・ノイマン、マルタン・テトロ等そうそうたる顔ぶれで、めずらしく緊張しながらのソロでした。フィードバックを別にすると、ここのところ、自分でもまったく満足できなかったターンテーブルの演奏ですが、そんな思いを快く吹き飛ばすような繊細かつ大胆な演奏がこのとき出来て、やっとなにか次が見えてきた感じでした。ちょうど7月にイギリスのAlcoholeレーベルからターンテーブルフィードバックだけのライブソロ3インチCDが出て、これが実質初のターンテーブルソロアルバムになるのですが、これと連作的な感じで秋の録音では、レコードを使わないターンテーブルソロのフルアルバムを (これはImprovised Music From Japanから発売の予定です)、さらに数年以内にはレコードを使ったターンテーブルのソロを作り3部作にしようと思います。

これに加えて、やっとギターソロの録音をする決心がつきました。これも今回の欧州ツアー中の成果です。録音は10月12日新宿PIT INNでのライブ録音になる予定です(ONJEの新作ともども、新しいレーベルからの発売になると思います)。内容は、まずは1枚目ではJAZZよりのギターソロアルバムを考えています。さらに将来、アブストラクト、フィードバック、アコースティックの3枚の異なるギターソロも作る計画です。でもって今月から10月にかけていくつかこれに関連したソロ公演があります。

8月19日 長野県白州 アートキャンプ ギターソロ
http://www.artcamp.org/

9月1日 裏窓オープン1周年記念ライブ@新宿JAM
ここでは爆音のフィードバックターンテーブルソロをやる予定です

9月5日新宿ゴールデン街「裏窓」アコースティックギターソロ(10人限定)
http://www.geocities.jp/uramado_record/index.html

10月12日 新宿PITINN ギターソロ・レコーディング・ライブ

10月21日 京都とランクルーム 勝井、鬼怒DUO 大友ギターソロ

あ、ちなみに京都トランクルームでは、明日8月16日(月曜日)、オフサイトのオーナー伊東篤弘のオプトロンソロと、トランクルームでサウンドインスタレーションを開催中のSachiko Mのソロがあります。伊東さんは弱音音響の聖地オフサイトのオーナーでありながら実はよそで演奏するときは超爆音の音楽家&美術家で、蛍光灯ノイズを使うオプトロンは音だけではなく視覚的にもめちゃノイズです。個人的にはオフサイトでさんざんお世話になってるだけでなく、ANODEにはいってもらったり、3年前にフランスでやった「Plays山下毅雄」のライブでも参加してもらいました。たしか彼、京都では初の公演ではなかったかな。すごいですよ。あの蛍光灯は生で見たほうがいいですよ〜。
http://homepage.mac.com/ujin/phour/bs8th.html

まだ未定ですが11月はもしかするとアコースティックギターソロで中部関西方面何箇所かまわるかもしれません。

映画のほうもいろいろと。4月には短編、安藤尋監督『Heavenly Days』を録音。また6月から7月の欧州ツアー中に、3回も日本にもどってきて塩田明彦監督、松田広子プロデュースの『カナリア』を完成させました。公開は来年になると思いますが、この作品、みながどう見てくれるのかとても楽しみです。問題作になると思いますよ〜。ずっと共演したかった浜田真理子さんがこの映画のサントラCDで歌ってくれることになり(映画のほうでも少しだけ参加してくれてます)、その録音も来月に控えています。浜田さん、すごいキュートな素敵な方で、今から録音楽しみです。あとは今現在、佐藤寿保監督の短編が進行中。これも楽しみ。

ぜんぜん話はかわりますが、ONJQのプロデューサーでさきごろDIWを退社した沼田順がWEBで発表している文章がめちゃくちゃ面白いですよ〜。毒舌満載。このまま本にしてもいいんじゃないかなあ。彼とは80年代に一緒にバンドをやってたころからの長い付き合い。でも、こんな文才があったなんて知らなかった。あのまっすぐな、直情型の性格そのまんまだ(笑)。これからもいろいろ一緒に仕事していきたいな〜。たのんますよ〜、沼田君!

http://www.h7.dion.ne.jp/~nkym/periodicals_numata_f/numata_contents_2004.html

ということで、これから半年ほどは、日本でばりばりライブやら作品を作っていきますのでよろしくです〜。


Last updated: August 17, 2004