Improvised Music from Japan / Yoshihide Otomo / Information in Japanese

大友良英のJAMJAM日記(2002年10月)

こんにちは。今回はベルリンから、久々のJAMJAM日記です。本当なら今頃は機内にいるはずなんですが、パリ、シャルル・ドゴール空港が雪で閉鎖になったおかげで、ベルリンからパリに向かう便がキャンセル。おかげで、ベルリンにもう一泊することになって、もう本当に何ヶ月ぶりかで誰にもあわずに、仕事もせずに、楽器にもさわらずに、だらだらとした夜を過ごしています。今ベルリンの気温はー5℃くらいかな。外に出るとほっぺたがキーンとしまる感じで、ちょうど、わたしが子供だった頃の福島の冬の感じに近いかな。雪をぶつけ合いながら学校にかよったけど、あの頃の友達は今ごろ、どこで何してんだろ。

あ、そうそうImprovised Music from Japanから雑誌が出ています。詳細はここに出ていますが、付録CDも含めて面白いですよ。特に杉本、ラドゥ対談は必読。わたしもいくつか文章書いています。ぜひぜひ読んでみてくださ〜い。

購入はここで出来ます

では昨年10月のJAMJAM日記です。


@月@日
体調すこぶる悪し。寒くなりだすといつも繰り返し扁桃腺で高熱を出すのだけれど、今年は北欧に行ってたせいもあって10月だってのに、もう扁桃腺が腫れ出してやがる。昔からがっしりした体型だったせいで、丈夫に思われがちだけれど、実はすぐ熱を出すし、アルコール・アレルギーだし、運動神経も最悪で、あるのは腕力と気力くらい。欧米の行き来は本当に疲れる。今年はあと3回も行かなくてはならない。憂鬱なり。

@月@日
吉祥寺GOK SOUNDにてギュンター・ミューラーとDUOレコーディング。1日で20テイクほど。録音はさくさくと進む。いいものになりそう。彼とは4年前に同じGOKで『Filament 2』の録音をしていて、このときの録音は青山真二の映画『路地へ』にも使われている。

@月@日
吉祥寺スターパインズ・カフェで3日間にわたりニュージャージーのCDレーベル、アーストワイル主催のアンプリファイ・フェスが開かれる。昨日一緒に録音したギュンターをはじめAMMのキース・ロウ、ウイーンからクリストフ・クルッツマンやブーカルト・シュタングル等、旧友が大挙して来日、日本からもアーストワイルから作品をリリースしている中村としまる、Sachiko M、杉本拓、吉田アミ等が参加、なんだか会場はまるでフランスあたりのフェスティヴァル会場のようだ。体調が悪いことも忘れて、また毎晩のように居酒屋で打ち上げる。みなステージではクールな演奏をするくせに、打ち上げになると、音楽の話なんかほとんどせずにわいわいと盛り上がるところがいい。なぜかオーストラリアで What Is Music Fes をやっているギターのオレン・アンバーチまでがフェス見たさに来日していて、打ち上げにも参加。今回のステージを企画した佐々木敦とも久々にゆっくり話す。

@月@日
フェス最終日。3日間12コンサート。どれも素晴らしかったけれど、オレにとって圧倒的だったのはSachiko Mと吉田アミのCOSMOSだった。何人かのミュージシャンも同じ感想だったようだ。彼女達の音楽にある強靭な意志と本当の意味での洗練された知性、そして独特の硬質さは多分世界でも突出しているのではないか。実は今回のフェスで一番危惧したのは、この音楽(あえて音響とは呼ばない)がある完成と洗練の域に来てしまっているということだった。完成と洗練の何が悪いのか…と言われそうだけれど、そもそも「完成」とか「洗練」といった発想そのものへの懐疑なしには創造なんてありえないはずで、それでも人間が何かを営めば、そこには必ず洗練や完成の罠が待っていて、その後に来るのは決まって現状維持と排他…みたいな。即興音楽を僕等が続けているのは、そういうサイクルとは違う生き方をしたいからで、なのに、それでもいつもやってくるお決まりの風景。こうやれば音響と呼ばれるような即興が出来る…というような暗黙のルールみたいなものが、実は少し前から出来ていて、そこの中でやり取りされるような安全な音楽みたいなもんにオレはだんだん嫌悪を感じるようになってきた。あるジャンルのようなものが出来ると数年後に必ずやってくるあの風景。もう何回か見てきたあの風景が、またもや…といういや〜な予感。予感はある部分で的中していたけれど、でも希望も充分にあった。というのは今回出ている出演者の多くは、すでにそんなことは十分に気づいているってことと、その先の為に皆、血が出るような思いで戦っていることもわかったからだ。こう書くと大げさに聞こえるかもしれないけれど、僕等のやっている音楽は、何かアイディアが見つかれば次の代案が出るような安易な音楽ではなくて、もっと生き方と直結したような音楽なのだ。皆その部分では個々が個々の戦いをしていて、その意味で、今回集まったミュージシャン達は皆信頼できる誠実さを持っていることがわかったし、そんな中でCOSMOSの演奏は、この音楽の内包する危機みたいなものに対して圧倒的に毅然としていたように思うのだ。それを支えるのは彼女達の音楽的な体力とでも言えそうなある種の突出した技術と、現状に対する旺盛な批判精神だろう。なんだか昭和の頃の本に書いてあるような口調になってきたけれど、彼女達の音楽を聴いていると、はっきりと、現状に対する辛らつな批判を音楽そのものの構造の中に持つような音楽の必要を感じる。なんだか観念的な話になってしまった。この日も深夜遅くまで打ち上げ。体はぼろぼろなのに、素晴らしく楽しかった。

@月@日
シカゴ。ONJQとシカゴのメンバーによるANODEでの公演。ANODEには旧友TV-POWの3人やオーストリアのトランペッター、フランツ・ハウジンガー、旧ガスター・デル・ソルのジーン・コールマン等に手伝ってもらう。今回はエイジアン・アメリカン・ジャズ・フェスの一環で呼ばれ、おかげで会場はシカゴの現代美術館ホール。数百は入る会場だ。個人的には非常にいいコンサートだったと思うのだが、評判はどうだったんだろう。大きな会場の欠点は終演後のお客さんの反応が分かりにくい点だ。ホテルにもどってからは隣のアメリカン・レストランでホットケーキやらオムレツみたいなものを食いながら日本人チームとTV-POWチームで打ち上げ。あいかわらず熱っぽいのに、何をやっているのやら。


Last updated: February 3, 2003