Improvised Music from Japan / Yoshihide Otomo / Information in Japanese

大友良英のJAMJAM日記(2002年11月)

おはようございます〜。サンフランシスコから東京に戻ってきました。花粉、ちょっとですが飛んでますね〜。目と肌がそういってます。今回の日記は昨年11月、久々のEYEちゃんとの共演からDCPRG脱退までです。例によってまた帰国便の機内で書いたものです。機内には大学生の団体が沢山乗っていて、ほぼ満席。機内映画のTRYは…う〜ん、いまひとつ…というか、垣間見える寒いくらい薄っぺらなヒューマニズムみたいなもに「?」を感じてしまいました。もっと徹底してドタバタの活劇にしたほうが、オレは好みだな。

で、日記に入る前に告知を少々。2月20日六本木「スーパー・デラックス」で、東京では本当に久しぶりのFilamentをやります。東京では久々ですが、実はこの2ヶ月間でバルセロナ、ヴェニス、大阪、ベルリンで4公演ほどFilamentをやっていて、会場の音響システムにもよるのですが、これまで以上にハードコアというか、硬質になってきて、かなり内容が変化してきています。また次の何かに向けてシフトしている感じで、自分自身でも公演毎の変化を楽しみにしています。今回の出番は最初になるので、どうかご来場遅れませんように。ちなみに、この日は大分の異才サックス奏者、内山桂さんの演奏が その後にあります。彼については、紹介文を書いたので、この後に載せておきます。そうそう、Filamentは京都でも2月17日「磔磔」でやります。対バンは山本精一とディーゼル・ギター。他にも2月21日「オフサイト」で宇波拓、中尾勘二とトリオで、2月23日下北沢「レディ・ジェーン」ではベースの立花泰彦さんとDUOでJAZZを、25、26はエマージェンシーで名古屋「得三」と豊橋「ハウス・オブ・クレイジー」に行きます。詳細はわたしのサイトで。

2月20日(木)東京、西麻布「Super Deluxe」午後7時30分開場、8時開演
『DELUXE CONCERT SERIES, VOL. XXXII』
大友良英 presents "山内桂 in Tokyo"
Filament:Sachiko M & 大友良英
山内桂サックス・ソロ
山内桂 (sax)、大蔵雅彦 (sax)、宇波拓 (electronics) & 大友良英 Quartet
3000円
問い合わせ:キャロサンプ(電話 03-3316-7376)
--Producer's note--
四半世紀近い音楽活動のなかで、これまでわたしは、東京や大阪といった巨大な音楽シーンがあるところとは別の"地方"の都市で驚愕すべき3人の即興演奏家に出会ってきている。いずれも年齢は40代。皆ほぼ孤立無援に独自の進化をとげてきたにもかかわらず、正統派といえるような演奏能力と独自の音楽性を持った人たちだ。一人は札幌のピアニスト寶示戸亮二。内部奏法を駆使した演奏と美しい響きを持った独特の音楽は、既にCDで 知っている人も多いだろう。 もう一人はI.S.O.をともに結成し、今や欧米でもその名を知られる山口の奇才、パーカッションの一楽儀光。彼のような方法で音響と即興演奏の接点を探った音楽家は彼以前には世界中を見渡してもいなかった。そして残る一人が今回紹介する大分のサックス奏者山内桂だ。彼の場合は他の2人と異なりCDのリリースもなければ、九州以外での演奏経験もほとんどない。それでもこの世界では知る人ぞ知る的な存在で、大分に行ったミュージシャンから彼の噂は何度も聞いていたし、なにより数年前にI.S.O.の大分公演の際に彼が参加したセットの素晴らしさとその音色の美しさがわたしの頭の中にずっとひっかかっていて、いつか東京でも紹介したいと思っていた。昨年の暮れ、その山内さんから突然電話がかかってきた。仕事をやめてこれからちょくちょく東京にも出てくるから、いろいろな場やミュージシャンを紹介してほしいという。大分で20年以上サラリーマンをしながら、既存の音楽シーンとはまったく無縁にひょうひょうと独自の音楽を醗酵させてきた山内さんが48歳にして、とうとう動き出したのだ。無論喜んで協力することにした。ただしそれは親切心なんかからではない。彼がこれからやるであろうことを聴いてみたいという我がままな好奇心で引き受けたにすぎない。

2003年1月 大友良英

ではおまたせしました。11月の日記です。


@月@日
オーストリア、ヴェルス。ミュージック・アンリミテッド・フェス。ここに来るのは3年ぶり。前回参加の際はオレがキュレイターだった。今回はボアのEYEちゃんとのDUO。フェスの主催者ウォルフガングのたっての希望だ。ぼくらがDUOでツアーをしたりCDをだしたりしたのは94〜5年にかけてで、共演どころかちゃんと話すのも久しぶりだ。2人とも7〜8年前とは全然違うような、でもどこかまったく同じような感じで、共演し、楽屋で近況なんかを話し、一緒にレコードやCDを買いに行ったり…。2人ともちょっとだけ大人になったのかな。う〜ん、そのへんは自分達ではよくわからないや。

シカゴから来るバンドの到着が遅れた関係で急遽、会場にいた地元の人が持っていたギブソン345を借りてサックスのマッツ・グスタフソンとDUOで30分ほどオーネットのロンリー・ウーマンをやることに。彼とは何度も会っているけど、共演ははじめて。

@月@日
EYEちゃんと2人で見に行ったトロンボーンのラドゥ・マルファッティの恐ろしいまでの無音演奏にひざががくがくくる。この日はドラムのハミッド・ドレイクのすさまじい演奏にもひざががくがくきた。オレのひざはすぐがくがくするみたいだ。

@月@日
福岡市立美術館。福岡のミニマリスト、美術家の江上啓太さんの個展会場にてソロ。江上さんは2000年の1月にジャパノラマの過酷なイギリス・ツアーをサバイブした同士。あのとき彼は連日各地の巨大な会場の壁に、ものすごい量のビニール・テープを張りめぐらせて僕らの演奏とともにバンでツアー。同行メンバーの中では一番年長者にもかかわらず、ものすごい体力で作品を作り続けていた。もっとも敬愛する、そして音楽もわかる美術家の一人だ。江上さんが過去から現在までの作品を混在されているのに触発されて、オレも今のフィードバックやターンテーブル自体の音を使う方法を軸にしつつ、久々にレコードを使った演奏も取り入れてみた。巨大な音響システムの助けもあって、思う存分いい演奏ができたような気がする。先日のジョン・ブッチャーとの共演あたりから、あきらかにターンテーブルの演奏が変わりだしてきている。これも先月のアーストワイル・フェスの影響だろうか。客席にI.S.O.の一楽さんを発見。

@月@日
映画『たそがれ清兵衛』を見る。これ傑作じゃないですか。田中泯さんの怪演だけではなく、映画として実によく出来ている。冨田勲さんの音楽もさすがでした。メインストリームの映画はこうでなくちゃ。幸いお客さんも入っているようで、時代劇ファンとしては、なんだか嬉しい。

@月@日
冨樫森監督の『ごめん』公開。この映画もほんとうに素晴らしい映画だと思うのだが、興行成績のほうは『たそがれ清兵衛』のようにはいかなかったようだ。自分で言うのもなんだけど、傑作だし、音楽も気にいってるんだけどなあ。見てさえもらえれば、き っと満足してもらえると思うんだけれど…。ヴィデオになったらぜひ見てみてください。きっと小学生の頃の淡い初恋を思い出すはずです。冨樫監督には、メインストリームを正面からやれるような実力をオレは感じていて、こういう監督にいい仕事がどんどん来ることを願ってやまない。こんな逸材をほっておいては日本の損失だと思うんだけどなあ。また一緒に仕事しようよ、監督。

@月@日
つくばにてダンスの岩下徹の公演。小池博史の演出で、水を使った特殊映像が韓国のキム・ヨンジン、音楽はオレ。岩下さん以外のスッタッフとは皆初顔合わせだ。ターンテーブルやギターの他にも打楽器類をいくつか使ってのソロだが、音響システムが特別で、7チャンネルのサラウンド・システムになっていて、相当おもしろい。数十メートルの範囲で音が各所に飛んでいく感じだ。いつもこんなシステムでやれたらまったく違う音楽が出来るかもしれない。

本番で岩下さんは数針縫うほどの怪我をしてしまう。白い衣装が見る見る真っ赤になって、一緒にやっていて気が気じゃなかった。それでもさすがというべきか、見ている人の多くは怪我とは気づかず演出だと思ったようだ。岩下さんはすぐに病院へ。幸い大事がなくてほっとする。

@月@日
下北沢「440」。韓国のサックス奏者カン・テーファン、ドラムの山木秀夫とトリオ。お客さんは少なかったけれど、内容には満足。カンさんも山木さんも一音、一音が本当に美しい。終演後、「レディ・ジェーン」に場所を移して打ち上げ。山木さんの最新作を皆で聴く。いや〜かっこいいです。特にサックスの清水さん、ベースのルリさんとのトラックは最高。山木さんはほんとうにすごい! ルリさんは知る人ぞ知る初期NYパンクの人で、一昨年までは恵比寿のクラブ「みるく」のマネージャーでもあった。多分「みるく」に出入りしてる若い人はルリさんの演奏を聴いたことほとんど無い…というかルリさんがミュージシャンだなんて知らないと思うのだか、もうそのステージたるや本当にかっこよかったんだから。ヴォーカリストとしてもジョン・ゾーンのいくつかの作品に入っているよ。そうだ、今度山木さん、ルリさんとトリオをやろう…と思い久々に連絡を取ってみたら、なんとパートナーのマークとオーストラリアに引っ越した後だった。ちなみにこの日記を書き出した切っ掛けは、マークとルリさんが作っていたフリー・ペーパーの『TOKYO ATOM』での連載だった。「みるく」でもずいぶんと世話になりました。マーク、ルリさん、元気〜。そのうちそっちに遊びに行くね〜。

@月@日
DCPRGのことで連日のように菊地成孔とメールのやりとり。彼とはこれまでもONJQの音楽のこと、DCPRGでの音楽や運営のことで過去にも何度も喧々諤々のやり取りをしてきている。いつも他人が見たら喧嘩にしか見えないような内容だ。だけど、今回のは今までとちょっと違ってつらかった。DCPRGをやめようかどうかで迷っていたからだ。やめたくない理由ははっきりしていて、このバンドにいると、多幸感って言葉を使いたくなるくらい楽しいからだ。ステージだけじゃない。リハやリハのあとの打ち上げも、まるでクラブ活動みたいに楽しい。ここにいると中学生に戻ってしまう感じなのだ。無論、いちギタリストとしてバリバリ演奏出来る楽しさもあるし、高井くんとの2ギターと贅沢なリズム・セクションとのアンサンブルは面白くてたまらない。この3年間で音楽的にもずいぶん鍛えられたように思う。他にも、行き帰りに高井くんの家によってうだうだする時間も楽しかったし、メンバーのキュートな奥様やガール・フレンド達、スケジュール管理人の美人ジェニファーに会えるのも楽しみの一つだった。それになによりオレは菊地か好きなのだ。それでもやめようと思った理由はひとつだけではない。直接的にはオレがあまりにも忙しくて来年以降活動が活発化しそうなDCPRGのスケジュールとシェアするのはどう考えても困難…ってのがとにかく大きな理由だ。これ以上このバンドを続けるためには、自分の活動をいくつかあきらめなくてはならない。音楽的な理由もある。音色やミックス、サンプリングに対する考え方の齟齬が菊地との間でないわけではない。単純に、サイド・メンとして誰かのバンドに長くいれない性質ってのもあるのかもしれない。でもきっと一番の理由は、無理をしてやっていると、いつか菊地と本当に喧嘩してしまうような気がしたからだ。僕らはつるみすぎていたのかもしれない。さん ざん迷った末、やはり、年内でやめることを伝えることにする。


Last updated: February 14, 2003