Improvised Music from Japan

CD 大友良英『We Insist?』(Noise Asia 再発盤)ライナー・ノート原文

音楽家の最初のアルバムには、その後のその人が創る音楽の全ての萌芽がある。このアルバムもその例にもれない。本作の中には、GROUND-ZEROやSamplig Virus、Memory DisorderやI.S.O.、そして映画音楽にまで至るわたしの90年代の全ての萌芽を発見することができるだろう。Consum Redのアイデアを本作15曲目のDeath HouseやラストのWallsの中に聴くことも可能だろう。

久々に聴き返した本作は、わたしにとって、まるでタイム・マシーンのように、当時の空気や匂い、感情をよみがえらせてくれた。ちょうど1991年から92年にかけての個人日記を久々に見たようなもんだ。GOK SOUNDでの録音と宅録をもとに8トラックのオープンリールとカセットやDATを使って編集、レコードやCDからのコラージュはいうに及ばず、フィールド録音なんかもかなり使っているし、今ではめったに使わなくなったコンピュータでの打ち込みも随所で使っている。当時使っていたのはMACのPLUSにCUE-BASEだった。ほとんどは東京、西荻窪にあった小さな木造アパートの中でつくられた。隣の住人から何度となく騒音の苦情が来て、わたしのほうも何度も謝った。あまりにぼろくて、雨漏りがしたり、最後には階段が崩れ落ちたりしていた。このアパートも今はない。

CDの作り方すら満足に知らなかったわたしが本作をつくれたのは、経験に乏しいわた しにつきあってくれた辛抱強いミュージシャン達やGOK SOUNDの近藤祥昭、わたしに自由にアルバムを作らせてくれた香港のSOUND FACTRYのHENRY KWOKとDICKSON DEE、そして彼らとの出会いの機会を作ってくれたKIM SUZUKIの力があったからに他ならない。さらにマックス・ローチの名盤からタイトルをとってそこにクエスチョン・マークをつけるユニークなアイディアとともに、80年代から示唆に富むアイディアでわたしを挑発し続けてくれたLIM SOOWOONGの力がどれだけ大きかったことか。改めて感謝したい。1曲目のラストに、LIMがやっていて私もメンバーだったNO PROBLEMというバンドの1988年のライブが数十秒だけ収められている。

オリジナルのアルバムでは、香港と日本の文化状況への提言のようなライナー・ノート をのせた。日本の文化侵略を憂える内容だった。当時東京と香港を行き来していたわたしにとっての偽らざる実感だった。ただ、今現在の状況が当時とは異なることと同時に、私自身の香港との距離感も変化してしまった。なので再発にあたり、改めてライナー・ノートを書き直した。

このアルバムが出て既に10年。再発を期に、そろそろ『WE INSIST?』の重力圏内か ら抜け出して次に行くべき時だと思っている。TZADIKから発売された『Cathode』 『Anode』『Dreams』、AMOEBiCの『Filament』、DIWから発売になるOTOMO YOSHIHIDE'S NEW JAZZ QUINTET『LIVE』の一連の作品群の中に次への萌芽があるように思うのだが、それもまたある程度の時間が経ってみないことにはわからないことだ。未来のことなんて誰にもわからない。ましてや自分の未来など…。ただできることといえば、ひたすら明日に向かって作品をつくっていくことだけだろう。

2002年4月 東京にて
大友良英


Last updated: September 6, 2003